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関西シティフィルハーモニー交響楽団
第35回定期演奏会の演奏より (「第35回定期演奏会ギャラリー」のページと同じものです。)
<第5幕第1場の前奏曲−「メリザンドの死」>
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(MP3形式:約5分、1.1MB)
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<第1場:城の地下室>
−オペラ:省略−(注1)
あの衝撃の夜からいくばかりか日が経った頃・・・
城の地下室では女中たちが噂話に明け暮れていた。
その地下室の採光窓の外では子供たちが遊んでいて、その騒がしい声が地下室にまで届いている。
一番年上の老女中は「今夜のうちに知らせがくるだろう」とつぶやくと、別の女中は「あの人たちは自分たちで何をやっているのかさえ分からないだよ」と言い、また別の女中は「こちらから上にあがるべき時が来れば言われなくとも分かる」(注2)と言った。
静寂が城を覆い始めているようだが、外で遊んでいる子供たちはまだ騒がしく、「その時」は訪れていないようだった。
「そのうち静まるさ」(注3)
と別の女中が言った。
さて、そこへ別の老女中が入ってきて、メリザンドの伏している寝室の様子を語り始めた。
寝室には王族の皆が集まっているのだが、もう誰も入れないほどに何も聞こえず、静寂が覆っているという。
「もうすぐお呼びがかかるだろうよ・・・きっと」と別の女中が言った。
そして、老女中は城内で堅く秘密とされている真実・・・あの衝撃の夜のあとで起こったこと(注4)について、自分が目の当たりにしたことを語り始めた。
老女中の話によると、ゴローとメリザンドは寄り添うようにして城門の前で倒れていて(上記挿絵参照)、その時ゴローの脇腹には剣が刺さっていて、かなり出血していたとのことであった。どうも自殺のし損じだったようである。一方のメリザンドは、左胸の下に小さな傷を負った程度であったとのことであった。
しかし、その後の状態は、重傷を負ったにも関わらず何とかヨロヨロ歩けるぐらいにまで回復したゴローに比べてメリザンドの方がはるかにひどく、もう瀕死の状態にまで衰弱してしまった。しかしそれでも、3日前には瀕死の状態で、かなりの早産であったものの、女の子を何とか出産したとのことだった。
ただ、その女の子は、老女中曰く「乞食ですら産みたがらない」ほどひ弱で小さな蝋細工のような子供(注5)だったという。
そう言っていると、別の女中が「ペレアス様は何処へ行かれたの?
って、みんな知らないのでしょうね・・・」と、ペレアスのことを口にした。
すると老女中は「みんな知っているよ・・・」と言い、ペレアスは外苑の「盲目の泉」の底で発見されたが、誰もその後会うことは出来なかった・・・とポツリと言った。
あまりにもいろんな事がありすぎて、このことだけでは問題にはならなかったらしい。(注6)
「・・・まあ、最期の日が来るまでこんな事は分かりっこなし(注7)・・・」と老女中は諦観を込めてこれらの話を片づけてしまった。
女中たちが皆、「あの人たちはぐるになって罪を犯した」と、王族たちの罪深さを口々にしていると、突然外で遊んでいた子供たちが黙りこくって肩を寄せ合って座り込んでしまった。
完全な静寂が城中を包んだ・・・
女中たちは「上にあがる時が来た」と言って、地下室から出て行った。
<第2場:城の居室>
−オペラ:第1場−
城の寝室では瀕死の状態ながら3日前に女児を出産したメリザンドがベッドに伏して寝ていた。
その傍らには心配そうにメリザンドを見つめるアルケルと、メリザンドを診察している医者がいた。
そしてベッドより少し離れた部屋の隅には、負傷から回復したゴローが遠巻きにメリザンドを見守っていた。
診察を終えた医者が、アルケルとゴローに対して、メリザンドの容体を本人の目の覚めぬうちに告げた。
「あのような小さな傷が元ではない・・・あの人は生きていけないから死んでゆくのです・・・あの人は理由もなくこの世に生まれ、死ぬと分かっていて、今度は理由もなく死んでゆくのです。(注8)だからと言って、もう駄目だとも申せませんし・・・」
それに対して、アルケルは確かにそうだと相づちを打った。
一方のゴローは、その様なことは耳に入っていない様子で、「あそこまでやるつもりはなかった・・・殺してしまったのだ・・・ついうっかりと・・・」と、あの夜にペレアスを刺し殺し、メリザンドを追いかけ傷つけたことを後悔していた。(注9)
そうしていると、メリザンドが目を覚ました。
メリザンドはアルケルに窓を開けてもらうと、窓から見える夕日に目をやりながら「私はやっと解った様な気がする・・・」と口にし出した。
アルケルが何の事かと聞くと、彼女は「自分で何を言っているのか・・・何が分かっているのか・・・分からない・・・言いたいことが言えない・・・」(注10)と、まるで譫言(うわごと)のようにつぶやいた。
アルケルは「そんなことはない、ちゃんと喋っているではないか」とメリザンドの譫言を否定した。
メリザンドは「やっぱり駄目です・・・」と言いつつも、「部屋にいるのはおじいさま一人ですか?」と聞き出した。
アルケルは「医者」と「もう一人」いると答えた。
メリザンドがその「もう一人」の名前を聞くと、彼はメリザンドが怖がるのではないかとかなりためらったが、ついにゴローの名前を答えた。
これを聞いたメリザンドは、ゴローがなぜ自分の側に来てくれないのかと不思議がった。(注11)
それを聞いたゴローは怖がらないことに安心したのか、ようやくメリザンドの下にすり寄ってきた。
メリザンドは「夕日が目に当たって顔がはっきり見えません・・・」と言いつつも、ゴローの痩せてすっかり老け込んだ様子を見て、「会わなくなってからずいぶんと経ってしまったのですね」と、まるで他人行儀に話した。
ゴローはどうしてもメリザンドに言いたいことがあると言って、医者とアルケルにしばらく部屋を離れて欲しいと願った。
そして、二人がその通り部屋を出ると、いきなりメリザンドに対して、自分がメリザンドに対してそうしているように、自分を憐れんで許して欲しいと言い出した。
メリザンドは何のことか分からない様子ながらも、ゴローのことを許すと言ったが、何を許して欲しいのかと聞き返した。(注12)
ゴローは「自分がおまえを傷つけてきたからだ」と言って、メリザンドを愛しすぎていた自分の所行を悔いる言葉をメリザンドに投げかけた。
そして、もう死んで行く身である自分に、せめて真実を話して欲しいと願い出た。
それをメリザンドが承諾すると、ゴローはいきなり「ペレアスを愛していたのか?」と、ペレアスとの関係について聞き始めた。(注13)
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「確かに好きでした・・・彼は今どこにいるのですか?」とメリザンドは答えて、ペレアスの行方を聞いたが、ゴローは「質問の意味が分かってないな・・・」と言って、メリザンドの質問には全く応じず、「ペレアスと愛し合い、それが道ならぬ事だと認識していたのか。さあ、言うのだ・・・!」と、徐々に語調を強めて、まるで罪人を尋問するかのように聞いてきた。
それに対し、メリザンドは「道ならぬ事はしていない」ときっぱりと否定した。
罪の意識のないメリザンドに苛立ったゴロー(注14)がしつこく「神にかけて真実を言え」と言っても、「それが真実なんです」と彼女がさらに否定すると、彼はいよいよ逆上し、「死ぬ間際になってもまだ嘘を言うか・・・!」と、ついにメリザンドが瀕死であることを本人の前で口にしてしまった。 |
「私は死ぬのですか・・・知らなかったわ・・・」とメリザンドが衝撃を受けた(注15)にも関わらず、ゴローが「そうなのだ・・・分かったか・・・だから早く言え!」と尋問すると、メリザンドは「本当は・・・本当は・・・」と口走りながらすっかり狼狽し、血色を失ってしまった。(注16)
メリザンドの様態が急変して、やっとゴローは正気に戻り、慌てて部屋の出口付近にいた医者とアルケルを呼び寄せた。
自分の再度の愚行を悔いるゴローに対して、アルケルは「手をかけたのか・・・殺す気か?」と詰問したが、彼は「もう殺しました・・・」とさらに悔いるように声を絞り出した。(注17)
そうしていると、メリザンドは弱々しい口調ながらも何でもない様子でアルケルに話しかけ、もう冬なのかと聞いた。
アルケルは不思議がりながらも「寒いのは怖い・・・うんと寒いのは本当に怖い・・・」と怯えるメリザンド(注18)を気遣い、寒い風が吹き付ける窓を締めてやった。
続いて、アルケルは衰弱したメリザンドを少しでも元気づけようと、彼女が産んだ子供に会わせてやった。メリザンドは子供が抱けないほどにすっかり衰弱して、自分が出産したことすら覚えていなかったが、アルケルが抱いている自分の子供が弱々しく笑おうともせず、泣き出しそうにしている(注19)様子を見て、「かわいそうに・・・」と、憐れむようにつぶやいた。
そうしていると、突然城の女中たちが部屋に入ってきて、まるで何かを待つかのように、黙って壁際に並び始めた。(注20)
何事かと女中たちに憤るゴローに対して、アルケルは静まるように諫めた。
メリザンドが目を閉じかけている・・・最期の時が近いのだ。
息こそしているものの、閉じかけの目には涙が溢れており、両手を何かに差しだそうとしている。
泣いているのはメリザンドの魂、両手は自分の幼子へ向けられていると、アルケルと医者が口々に語った。
ゴローは「最後にどうしても言いたいことがあるのだ。」(注21)と言って、再度メリザンドと二人だけにして欲しいとアルケルに願い出た。
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しかし、アルケルは「近づいてはいかん・・・彼女の心を乱してはいかん・・・ものを言ってはならん・・・お前には魂というものが分かっていない・・・」と言って、もはやそれを許すことはなかった。
続けてアルケルは「人の魂とはとても無口なもの・・・独りでひっそりと去っていくものなのだ・・・彼女の魂も人に目立たぬように苦しんでいる・・・だがゴローよ・・・分かったことは全て苦しみのもとなのだ・・・(注22)おお・・・何という・・・」と、静かに、しかし悲しみを込めた口調でゴローに言い聞かせた。
すると、壁際に並んでいた女中たちがいきなりその場に祈るようにして跪きだした。(注23)
何事かとアルケルは驚いたが、その瞬間を悟った医者は「あれでいいのです」と言ってその場を鎮めた。 |
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もはや何も言う必要はなかった・・・部屋中に長い沈黙が続く・・・
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アルケルは「私には見えなかった・・・確かにそうだったのか?」(注24)と医者に改めて確認したが、「確かです。」と医者はきっぱりと答えた。
本当にその瞬間はあっけなかった。彼女は何一つ言うことなく去ってしまったのだ・・・
「お・・・おおぉ・・・!」ゴローは振り絞るような声で嗚咽し始めた。
アルケルは最後に言う。
「ここにはおらぬ方がよい・・・彼女には静寂が必要なのだ・・・さあ出よう・・・彼女は本当に物静かで、控えめで、無口で・・・儚く・・・そして謎めいた存在だった・・・もはや私にも先のことは分からぬ・・・この部屋には何も残さぬ方がよい・・・子供も残さぬ方がよい・・・今度はこのあわれな小さな存在が生きていく番なのだから・・・」(注25)
皆がメリザンドの眠る寝室を後にした。
最後に残ったのはただ一つ、二度と目覚めぬ哀れな存在・・・
そこには「死」と「静寂」のみがあった・・・
− 完 −
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